fool

fool、霧ノ中
12月3日。
菜々子ちゃんが死んだ。
心臓が動かなくなったことを告げるようにピーと音が部屋になり響く。
特捜隊のメンバーの顔は俺のいる位置からよく見え、みんな一様に信じられないものを見たような顔をしている。
相棒は先程と変わらず菜々子ちゃんの手を握りしめたまま動かない。
この位置からは泣いているのかまでは判断つかないが彼はきっと泣いているだろう。
「な、菜々子?」
部屋の入口近くから聞こえたか細い声が堂島さんのものだとわかるのに数秒かかった。
「生田目……」
怪我をして入院していた堂島さんから現役警官の人を威圧する声が漏れる。
堂島さんは傷ついた体を引きずって部屋を出ていってしまった。
行き先はたぶん生田目のところだろう。
堂島さんの後を追うため相棒以外の特捜隊は部屋を出る。
部屋を出て告げられたのは、犯人の生田目が被害者である堂島さんと菜々子ちゃんが同じ病院に入院しているということだった。
俺はそれを相棒に知らせるために部屋に逆戻り。
そのことを知らせると「お兄ちゃん少し行ってくるね。大丈夫だよ、すぐ戻って来るから……」とゆっくりと菜々子ちゃんの手を離して言った。
「陽介、生田目のところへ行くぞ」
相棒は一言そう言って俺の前を歩きだした。
―――――――
生田目の入院していた部屋には都合よく大きなテレビがあった。
まるで「落としてください。」と言われているかのような気がしてくる。
その大きなテレビに生田目のシャドウが映った。
本人、とは言いがたいがきっと本人であることに違いない。
我は汝、汝は我。とも言うから。
本人から語られるものにみんな怒りをあらわにする。
生田目本人だけが震えてしまっていた。
「調度よくテレビもありますよ。先輩」
直斗は部屋に置かれている大きなテレビ近づきながら言った。
テレビのもとにたどり着きこちらを振り向いた直斗の瞳が何故か煌々と輝く金色に見えた。
直斗のその言葉に特捜メンバーが同意していく。
同意していったみんなの瞳もまた金色に見える。
話し合いの末、結局生田目をテレビの中、シャドウと狂気が渦巻くマガツの中に落とすことになった。
話し合いといっても生田目本人とではない。
狂気に煌々と輝く金色の瞳を持つ特捜隊メンバーで話し合った結果だ。
「里中や天城、りせも直斗も外に出なくて大丈夫か?」
「大丈夫。私たちも見届けるから」
今から人を殺すことになるんだ。血生臭いことは女子に見せたくは無いと心配して声をかけたのだが、大丈夫と返されてしまってはどうしようもない。
「相棒、本当にいいんだな。」
生田目を落とす前に最後の確認として隣の相棒に聞いた。
「いいよ。」
そう言った彼の瞳もまた金色に輝いていた。
相棒は一歩、また一歩と生田目の元へ歩いて行き、恐怖からか何かはわからないが震えている生田目を、犯人をテレビの中に突き落とした。
「さようなら、生田目さん」
(君達なら”真実”に辿り着けると思っていたのに……残念だよ)
どこからかそう聞こえた気がした。
―――――――
3月11日
相棒が堂島家から八十稲羽から離れる日。
町を相変わらず霧が覆っていてあまり視界はよくない。
そんな中俺や特捜メンバー、それに相棒がこの町で築いた絆の持ち主が見送るために駅に集まっていた。
特捜隊のメンバーは駅員さんに少し我が儘を言ってホームの中に入れてもらった。
「電話するからね!」
など別れを惜しむ挨拶をホームでしていると相棒が俺だけを呼び、少し離れた場所まで連れていかれた。
「陽介、朝家を出るときに遼太郎さんにありがとうって言われたんだ。
この選択が間違っていたとは言わないけれどもしも、もしもなんだけれどあの時こうしてなかったら菜々子は生き返ったのかもしれないし、クマも戻ってきたかもしれない。あくまで予想だけど。
犯人はあくまで犯人で真犯人じゃなかったのかもしれない。
だから俺達は愚者なんだと最近思うようになったんだ。」
相棒は一人で言いきってしまうと俺の言葉を待たずにみんなの元へ走って行ってしまった。
相棒は”もしも”と仮定して話していたが何か確信のある話し方をしていた。
ふと空を見上げると太陽光は霧に阻まれほとんど届かなくなっていた。
霧は深くなるだかりで一向に晴れてやくれそうになかった。
(Truth disappeared into mist.)
2021年6月29日