せめて聞いてくれ

シドーがようやっと牢屋から開放される!
僕はアネッサから預かった鍵を握りしめて、急ぎ地下へと向かう。駆け足ダッシュジャンプ。つまづいて転んだけれども気にしてられない。この寒いムーンブルクの地で一人牢屋にいるシドーのことを考えれば気にもならなかった。
震える手が解錠の邪魔をする。ええい、ままよ!ハンマーで檻を破壊する。
言いたいことはたくさんあった。
閉じ込めてごめん。寒かったよね、せめて焚き火を置いておけばよかった。一人にさせてごめん。あの後、色々あったんだ。
けれどもシドーのその見たことないような、人を寄せつけない雰囲気が僕を黙らせた。
「信じていたのに」
その一言に僕は崖から突き落とされたようだった。
そうだ。シドーは僕のことを信じてくれていたんだ。その信頼を裏切って、彼を長いこと牢屋にいれることになったのは僕のせいだ。僕が頼まれるままに牢屋を作った。
彼は僕を一瞥もしないまま、上がってしまう。
ちょっとちょっと、ちょっと待って欲しい!待ってくれ!
歩いていった彼を追いかける。追いついたのは城を出てすぐ、灯火の前だった。
シドー!せめて、せめて言い訳を、言い訳だけでも聞いてくれ!
言い訳になってしまうのなんて、わかりきっていた。それでも、聞いて欲しかった。許して欲しかったけれど、許してもらえるなんて思ってない。ただ、せめて、聞いて欲しかったんだ。
「言い訳なんて聞きたくない。お前とは絶交だ」
言い訳を言おうとした僕に伝えられたのは絶交宣言。
あの嵐の夜にからっぽになってしまった僕にはルルとシドーしかいないのに。そのシドーから絶交だと、言われてしまった。
監獄から帰ってきて、三人だけのパーティ。
「これからも一緒よ」
焚き火に照らされたルルの言葉に僕も同じ気持ちだった。
これまでも一緒だったのだから、これからも一緒に決まってる。
あの夜、確かにそう思ったのに。
目の前に広がる現実はシドーとの別離しかない。ルル、僕はどうすればいいんだろう。
この島の出来事が終わるまでは一緒にいてくれると彼は言うけれど、からっぽ島に帰ればそこでさよならだ。
それに、彼は僕と目線を合わそうともしない。アトラスとの戦闘前もその戦闘中も終わった後も、ひたすらに僕に背を向け続けた。
背を向け続け、言い訳すら聞いてくれない彼にだんだん腹が立ってくる。僕だってわかっていれば、君が閉じこめられる予定の牢屋なんか作りやしなかった。
いつもはモノ作りの楽しさから上がる口角も、注意されるぐらいには下がりきっていた。
教団から開放されたことを祝う祭りも、花火もまったく楽しめない。渡された八尺玉もそんな気分になれず、丸々鞄にしまった。
空気の澄んだムーンブルクで打ち上げられる花火はは大層美しかったが、彼の隣で一緒に見られない以上、それは火の花でしかなかった。