アクセサリー

主順。に順平のネックレスが実は過去にキタローがプレゼントしたものだったのでは、という妄想。誕生日お祝い小説でした。


ガヤガヤと生徒のお喋り、騒ぎ声でうるさい教室に休み時間の終わりをつげるチャイムがなる。それでもやまない喧騒をドアを開く音がぶった斬る。

「はーい!休み時間は終わりよ。朝のホームルーム始めるわ」

入ってきたのは淡い色合いのスーツの似合う女性。このクラスの担任の鳥海いさ子だ。
彼女の登場に生徒は席に着き始め、私語が少なくなっていった。
静かになると鳥海は出席を取り始めた。一人一人名前を呼んでいく。

「白波ー白波要ー」

返事がない。鳥海は名簿から顔を上げ、教室を見回した。空席が一つ。いつもなら静かに返事をする青い髪の彼がいなかった。

「あら。岳羽、なにか知らない?」
「私が出てくる時にはもういませんでしたよ」

不思議に思い、同じ寮の岳羽に聞くと彼女が出た時にはすでに彼は寮を出ていたようだ。すると――

「サボりね」

授業中、居眠りすることはあっても、サボったことのなかった彼がサボりとは珍しいこともあるもんだ。鳥海はそう片付けると、出席の続きをとりだした。

平日の昼間。学校があるであろう時間帯にポロニアンモールを歩く制服姿の少年が一人。
地元の私立高校の制服に身を包み、皮の学生カバンを脇に挟んで猫背であるく青い髪の少年。白波要だ。
普段の眠たげな眼差しは何処へやら。その目は真剣そのものだ。
彼は噴水のそばに立ち、ぐるっとポロニアンモールを見回した。見回すまでもなく、店の場所は覚えているが落ち着くためにも彼は見回した。
どれだけ考えてもこの店のものがふさわしいとしか思えない。
白波は一つため息をこぼしてからBe blue Vの扉をくぐった。

夜。岩戸代分寮は静けさに包まれていた。今月末に大きなイベントが控えているからだった。
伊織は自室に帰ってくると、教科書の入ってないリュックサックを床に放り、ベッドへ倒れた。
今月末、一月の末にあるイベントをどうするか。伊織の中ではもう答えは出ていた。
忘れるなんてできない。今まで楽な方へ流されてきたが、今回ばかりはそうもいかなかった。
楽なほうに流れて、影時間もペルソナも彼女のことを忘れて、ただの高校生に戻ることはできない。
彼女のことを忘れるくらいなら、不動の理にすら立ち向かう覚悟を決めた。
大丈夫。春はくる。何度でも巡ってくる。卒業したらどうしようか。就職か進学か。どちらにせよ、隣には白波がいる気がする。もちろんゆかりっちも、風花も。
伊織がつらつらと考えていると控えめに扉がノックされる。

「順平。俺だ。白波」
「どーぞー。あいてるぜ」

白波要。本日学校を休みやがったリーダー様は許可を出すとするりと部屋に入ってきた。

「誕生日おめでとう」

彼は後ろ手に隠し持っていた小さな小箱を伊織に差し出した。綺麗にラッピングされたそれはかわいらしい包装紙にくるまれ、赤いリボンが結ばれている。
そうだ。今日、一月十六日は俺の誕生日だ。
ここ最近はバタバタと忙しくすっかり忘れていた。自分の誕生日を忘れるなんて、いつもなら考えられない。
そこまで考えて、伊織は疑問が一つ浮かんだ。
どうしてあいつは俺の誕生日知っているんだ。
疑問を素直に聞くと、「秘密。お願い。聞かないで」と彼は悲痛そうな顔をする。

「開けてもいいか?」
「どうぞ」

彼の言葉に伊織はペリペリと包装紙をめくり、小箱を開けた。
中には十字架のネックレスが入っている。細いチェーンの先にシルバーの十字架がついているシンプルなものだ。

「似合う似合わないじゃなくて、それを順平に持っていてほしくって。」

それじゃ、おやすみ。そう言って彼は強引に話を切り上げて部屋を出て行った。

2020年4月29日