ごめんね

鯖殺戮ルートのM戦。


8月も終わりに差し掛かり始めた。
東京の完全封鎖も8日目となった。
自分の吸収したベル達が言うには上野が戦いの場となるようだ。

上野へたどり着くとかつての仲間。
ユズとミドリが自分の前に立ちはだかる。
後方には他の悪魔使いがCOMPと怒りを手に携えている。
俺の前に立ち塞がるのならたとえ、幼なじみだろうと、仲間だった者だろうと容赦はしない。
魔王としての力が覚醒していくのを感じた。
(ごめんね…)
俺は右手をユズへと向けて振るう。
するとユズへ向かって一直線に炎が進んでいく。
ユズはその炎を辛うじて避ける。
俺は後ろを振り返り標的をミドリへと変え、またも右手を振るえば天から雷が降る。
ミドリは雷を後方へと跳ぶことで避けた。
ユズが俺の行動に驚いたのか何かを言っている。
けれど、ユズの言葉を俺の耳は拾ってやくれない。

ヤツが来るっ……

頭上を見上げると神に次ぐ天使。
小唯一神と呼ばれるメタトロンが降りてきていた。
ヤツが降りてきたことにより、泉が聖なる気が満ちていく。
「ヤツを倒せば事実上神の軍勢は瓦解する!!」
「行くぜ、優夜!」
右を見ればアベルの、いや自分の兄が、左には魔王となった自分に今もなおついて来てくれる親友がCOMPを持ち立ってくれている。
後ろにはカイドーとジャア君がいる。
(ありがとう。みんな…)
「いくぞ……
天使も人間も俺に逆らうヤツは蹴散らせっ!」

戦いが始まると天使どもはすぐに魔王である俺に攻撃を仕掛けて来る。
が、すでに魔王として覚醒を始めた俺を止められるヤツはいなかった。
怪我を負ったとしてもナオヤが癒しの力を使い、アツロウがその拳をもって敵を粉砕する。
すぐに俺に仇なす天使どもはいなくなる。
しかし、時が経てば増援がくるだろう。
ささっと小唯一神とやらを倒そう。
俺はガルーダをCOMPから喚びだす。
ガルーダは風をその体に纏わせ敵の元へと俺を連れて行ってくれる。
「させない!」
それを遮るかのように前に立つのはユズだ。
ユズの両脇には癒しの力を得意としている女神、ブラックマリアと妖精のトロールがいる。
「どうして、こうなっちゃったのかな…
わたしが、あの時、あなたと一緒に行けばこうはならなかったのかな?」
違うよ、ユズ。
俺がこのことを選択したから
キミが敵になるのをわかっていて選択したんだ。
「封鎖の中の人を助けたいっていう気持ちはすごくわかるよ…
でもね、今のあなたは間違ってる!!
今のあなたはただ殺戮を楽しんでいるだけ!」
楽しんでいる?
そう見えるのかな?
でもねこれは正当防衛だ。
すこし行き過ぎかもしれないけれど…
『捨てることで守る』
やるには徹底的にやらなければいけない。
人間が大切だと天使に思われればキミが狙われてしまうかもしれないから。
「だから仲間だった、幼なじみのわたしが!
あなたを止める!!」
ユズは覚悟を決めたのか俺に攻撃を仕掛けようとしてくる。
けどね
「遅いよ、ユズ」
ユズが臨戦体勢に入ったのを確認するとガルーダはその速さをいかし千烈突きを繰り出す。
「きゃあぁぁっ!!」
ユズの両脇にいた悪魔はその威力に耐えられず消滅していった。
ユズはなんとかギリギリのところで耐えきった。
だが、俺の攻撃を耐えきれるか?
俺は視線をユズへと向ける。
ごめんね…
ごめんねユズ…
ごめん……
これが、俺の選択だから
ユズの頭上に氷の雨が降る。
「いやぁぁぁ!」
ユズが悲鳴を上げているがそれでも氷は降り止まない。
ユズが倒れた頃やっと止んだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい……
わたしが、逃げなかったら…」
ユズは上の空で「ごめんなさい」と繰り返し呟いている。
キミが悪いんじゃないんだよ。
俺が、悪いんだ。
けどね、ただキミを守りたかったんだ。
ユズを気絶させると、隣にナオヤがやってきた。
「さすが俺の弟だ。幼なじみにも容赦がないとは、恐れ入る。魔王様」
「頭が高い。俺は魔王だぞ」
「ハッ!声に心が篭ってないぞ」
「気のせいだろ…それに魔王に心がいるのか?」
「それもそうだ。
あとはあの娘と小唯一神のみだ。
増援が来る前に片付けるぞ」
この場にはあの娘、ミドリとメタトロンそして俺達、魔王御一行のみとなった。
「優夜さん。あなたはアタシが絶対に止めるから!」
ミドリは目に涙を浮かべながらも俺を睨んでくる。
ごめんね…
次はキミも悲しませない道を選ぶから。
俺はガルーダの力を借りてミドリの元へ降り立ち、すぐに攻撃を繰り出し気絶させる。
あとはヤツのみだ。
メタトロンへと視線を移す。
絶対に倒してやる。
俺の悪魔のブラックマリアの回復を受けているとぽんっと左肩を叩かれた。
叩かれたほうを振り返るとアツロウがいた。
「優夜…後悔、してないか?」
アツロウは俺の心を見透かしたように的確に言ってくる。
「後悔なんて、してないさ」
俺は笑って言う。
「そうか、ならいいんだ」とアツロウもつられたように笑うと前を向いた。

後悔はしているさ。
けど、ここで嘆いたところで何かが変わるわけではない。
アイツを倒して、それで終わりだ。
「アツロウ、ナオヤ、これで終わらすぞ」

(そして、繰り返すために始まりへと向かう)

2020年4月29日